「平均」の意味に注意
有価証券報告書に記載の「平均年間給与」,人事院による「国家公務員給与等実態調査」,総務省の「地方公務員給与実態調査」等にデータ化されている年収や月収はいずれも「平均年収」または「平均月収」です.当サイトではそれらの数値を紹介していますが,そもそも「平均」は給料の実態を正しく表わしているのでしょうか?
ここでは「平均」の意味を改めて考えてみたいと思います.
平均とは?
「平均」とは,一般的には「相加平均(算術平均)」を指します.これは全体の合計を個数で割ることにより求められます.
例えば,従業員20人の会社の年収と人数の分布が次の表の通りだったとします.
(※あえて極端な例を示しています)
年収 | 人数 |
2,000万円 | 2人 |
1,500万円 | 1人 |
500万円 | 8人 |
300万円 | 9人 |
この場合,この会社の平均年収は(2000×2+1500×1+500×8+300×9)÷20=610万円ということになります.
この「平均年収:610万円」という数値はこの会社の実態を正しく表わしていると言えるでしょうか?
平均は極端に大きい数値に左右される
この会社には,年収610万円の従業員はそもそも存在しません.平均は形式的に導かれる数値なのでこれは当然のこととして,では,年収610万円以下の従業員はこの会社の全従業員のちょうど半分(10人)になっているでしょうか?
表を見ると,610万円以下の従業員は17人います.これは全従業員の半分どころか85%を占めています.
全従業員の85%が年収610万円以下なのに,平均年収は610万円,というところに違和感がないでしょうか?
平均年収がやけに高くなる原因は一部の従業員の年収が飛び抜けて高いためです.平均年収の算出上,この飛び抜けて高い数値が平均値を押し上げてしまうのです.
真ん中はどこにあるのか?
この会社の従業員20人を年収順に並べたとき,ちょうど真ん中になる人の年収はいくらでしょうか?
表を見ると,上から10番目の人の年収は500万円です.下から10番目の人も500万円です.ということはちょうど真ん中の人の年収は500万円,ということになります.この数値を中央値(メディアン)と呼びます.
この会社の場合だと,年収の人数分布的にも「中央年収:500万円」の方が,「平均年収:610万円」よりも実態をよく表わしていると言えます.
最も人数が多いのは年収300万円では?
この会社の年収分布で最も人数が多いのは年収300万円です.これを最頻値(モード)と呼びます.従業員20人程度では最頻値は変動しやすいためあまり用いませんが,母数が多くなる分布(国民全体の統計など)では最頻値も重要になってきます.
平均の迷信
「平均年収」という語からは,その年収以上の人数と以下の人数が同じである,とイメージしてしまいそうですが,必ずしもそうではありません.
(このイメージは「平均値」ではなく「中央値」です.年収の分布が中央値を挟んで対称であれば,中央値と平均値は同じ値となるので,中央値と平均値は混同されがちです.)
もしこの会社の従業員の「身長」の平均値を求めれば,それはおそらく違和感のない数値になるでしょう.なぜなら身長には平均から極端に離れた値(例えば身長300cm)が出現しないためです.一方,年収は必ずしも全員がおしなべた数値であるとは限らず,一部の人だけがものすごく高い,ということもあり得ます.そのため平均値が押し上げられてしまい,その結果違和感のある数値になってしまうのです.
この会社で年収2,000万円の人が1人退職して,残りの従業員の年収は変わらなかったとしましょう.このとき,会社の平均年収は610万円から一気に537万円まで下がってしまいます.従業員19人の年収は一切変わらないのに平均年収は70万円程度下がるのです.平均年収の数値の変化と,実態の変化とは大きく乖離していることがあることに注意する必要があります.
平均年収と平均年齢
給料のデータには平均年収と共に平均年齢も記載されていることもよくあります.この見方にも注意が必要です.
例えば「平均年収610万円,平均年齢35.5歳」と記載があったとき,これは必ずしも「35.5歳で610万円もらえる」という意味にはなりません.
平均年収と平均年齢の計算は別物です.仮にこの会社の年齢別人数分布が次の通りだったとします.
年齢 | 人数 |
20歳 | 5人 |
25歳 | 2人 |
30歳 | 1人 |
35歳 | 1人 |
40歳 | 5人 |
45歳 | 3人 |
50歳 | 1人 |
55歳 | 2人 |
この場合,平均年齢は35.5歳となります(ちなみに中央値は35歳です).年収分布表と年齢分布表から平均年収(610万円)と平均年齢(35.5歳)を算出することはできますが,この2つの表の関係性は不明です.「35.5歳で610万円もらえる」ということには何の根拠もありません.
一般的には年齢と年収の関係は「年功序列」を想像しがちです.仮にこの会社の年収が完全に年功序列で年齢が上がるに従い年収が増えるとすると,20歳から35歳までの9人は年収300万円,40歳から45歳の8人は年収500万円,50歳の1人は年収1,500万円,55歳の2人は年収2,000万円ということになります.
よって35歳の場合は年収300万円,40歳の場合は年収500万円なので,35.5歳では年収610万円には遠く及ばないことになります.
ちなみに,これを中央値で考えると,年齢と年収の中央値は35歳,500万円,となりますが,これもやはり「35歳で500万円もらえる」ということにはなりません(年功序列だと35歳では年収300万円です).
また,会社によっては年功序列であるとは限らないので,平均年齢と平均年収には余計に相関性がありません.
とはいえ・・・
「平均」は必ずしも実態を映さないとは言うものの,各種統計やデータには平均値しか記載されていないことがほとんどです.当サイトとしても,それらの「平均値」のデータに頼るしかありません.
「平均値」の解釈には時として注意が必要,ということを念頭において,当サイトに掲載している「平均値」を見ていただければと思います.
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